2006-02-19 日
殿方にはモテマ専科
芋でも蛸でもナンキンでもないのだけれど、なぜか“おんな子供”には人気がある。昨年、入社してきた、名前のままに太陽のように明るい陽子ちゃんも、やったらゴロニャンしてくる。私は毎年春に、新人の研修を担当している。皆それなりに新人君は、一時でも師を務めたこの私を敬ってはくれるけれども、陽子ちゃんのように熱烈なる親愛の情をずっと持ち続けてくれる人はチト珍しいし、その情も半端じゃないから怖い。社の内外を問わず、私の姿を見つけると手を振りながら「姫宮さ〜ん」と飛んでくる。そして必ず言うのが「今度、ゆっくりお喋りさせて下さいよぉ」。一番驚いたのはトイレから出てきた私に向かって「エー、なんだぁ私もトイレ行こうと思ってたのにぃ」。この一言にはさすがに大らかな0型の私も引きました。社食で自販機のコーヒーをゴチしたのがいけなかったかなぁなどと、ヘンなトコで反省する毎日だ。
何しろ、陽子ちゃんは仕事も全部この私の所に持ってくる。「忙しいのだから他の人に頼みなさい」と、かなりきつく言うのだが「だって、姫宮さんが好きなんですぅ」って、ちっとも嬉しくない。部長まで「彼女は姫宮さんの所にばかり行きますね」と言うので「母親くらいのつもりなんじゃないでしょうかねぇ」と、否定されることを見越して返事したのに「そうなんですか」って。「部長、そりゃないでしょ」と、こういうのをお笑いではボケ・ツッコミと言うのだろうか。
とにかく、その陽子ちゃんが職場でいつものようにまとわりついて来て、ただでさえ狭い私のデスクの側でゴロニャンした途端にパソコンの画面がパソッと消えてしまった。どうやら、あまいコンセントが陽子ちゃんの迫力でグラリと抜けてしまったようだ。「ごめんなさぁ〜い」と大慌てでコンセントにプラグを差し込む陽子ちゃん。パソコンを立ち上げ直したが反応が無い。「わぁ、どぉしましょぉ」益々慌てふためく陽子ちゃん。でもここで「どうしましょう」「どうしましょう」とじゃれつかれても直るものでもなし、ここは「煩い、散れ!」と、言いたいところをオトナの私はグッとガマン。「そのうち直るから、ささ仕事に戻って」と微笑みのモトに追っ払う。「わぁ、おおらかぁ」なんて言ってやっとこ陽子ちゃん退場。ホッとはしたけど、こりゃ困ったものだぁ。どうすりゃいいのさ。
前の職場でも「姫宮さんは優しいから、私大好きです」と、女性に言われた。こちらは、それなりに私も評価している後輩だったので素直に嬉しかった。しかし、その後に「女性には優しいのに、なんで男性にはあんなに冷たいんですか、まるで男はみんな敵だと思っているみたい」と言われたのはショックだった。そうかなぁ。私って男性に対してそんなに冷たくしてるかなぁ。
中学の時には、柄にもなく生徒会の副会長なんぞをやっていた。朝礼では教師と一緒に生徒に向かって立ち、時には朝礼台の上から号令をかけたりもした。だから当時は、否応なく目立った。けれども、おずおずと「頑張って下さい」なんて声をかけてきてくれたのは、やはり下級生の女生徒ばかりだった。中には廊下で「あのぉ、リボンが曲がってます」なんて言って震える手で制服のリボンを直してくれたういヤツもいたっけ。
そもそも、生徒会に携わったのも、同じクラスの男子生徒の情けない姿を見たのがきっかけだった。生徒会長は、2年生が各クラス毎に1人選出した候補者と、それ以外にも立候補したい生徒を集めて、その中から全校生徒が選挙で選ぶというのが決まりだった。ところが我がクラスの代表になった武井俊夫君が「生徒会なんかやってたら受験勉強ができない」と職員室で担任に泣きながら訴えていたのだ。そんな武井君を見て「なら次点の私が立候補しますよ」って啖呵を切ったのが元だった。そんな事があってからかなぁ、男性に冷たく接するようになったのは。あの女々しく泣いている男の子の姿がトラウマになっちゃったのかなぁ。それで、雄雄しく生きるハンサム・ウーマンを目指しちゃったのかしらン。
子供に関してはこんなことがあった。従姉の家に遊びに行った時のことだ。従姉のご近所さん達も母子で来ていたのだが、母親がお喋りに夢中になっているうちに、まだヨチヨチ歩きの一人の女の子が、いつの間にやら2階に上がってしまっていたのだ。様子を見てみると、階段の所で心細げに見下ろしている。「おんりしたいの? お姉ちゃん(読み過ごすこと)が下ろしてあげるね」と言って私が階段を登り手を伸ばすと、大人しくその子は私の腕の中に入って来た。どうってことなく私は子供を抱えて階段を下りたのだが、なんか階段から続く玄関の周りにやたらギャラリーが居るではないの??? 下り切って、そっと子供を床に下ろすとギャラリーから一斉に「フォー」という、ため息が漏れた???
従姉に訳を聞かされて驚いた。その子は異常に癇の強い子で、1歳を過ぎた頃から顔見知りはおろか、母親にさえ抱かれることを拒んでいるというのだ。それでも抱き上げようとしようものなら反り返って泣き喚き、手がつけられなくなってしまうので、熟睡している時でもなければ、母親でさえ抱きしめることができないのだそうだ。それは近所でも評判になっており、私が階段を登り始めた時から回りは固唾を飲んで見守っていたようだ。そして子供が自分から手を出して抱かれ、なんなく階段を下り終った時に一斉にレーザーラモンHG並みに、安堵の「フォー」が出たのだった。
人見知りの激しい子とも、それとは知らず二人きりで楽しく散歩をしたこともあるし、腕の中でスヤスヤと寝息を立てて寝られたこともある。従姉には「子供を持ったこともないのに、なんなの?」と逆に呆れられている。
ああ、いつになったらモテモテも“おんな子供”から“素敵な殿方”に変わることができるのだろうか。そう言えば、友達のウエダは「年寄りにばかりモテる」と嘆いていたっけ。未来のある子供の方が、まだマシってとこかな。