2005-12-04 日
ヴォジョレヌーボー・ラン
「本日は小春日和、お散歩にはうってつけですね」なんてことをワイドショーのキャスターが言ってたと思ったら、同級生が尋ねて来た。お散歩の距離ではないが、めちゃくちゃ遠い訳ではない。片道1時間くらいかな。手には、日本が世界で一番最初に呑める国なんて言って、毎年11月第3木曜日の真夜中に大騒ぎしているヴォジョレ・ヌーボーを下げている。ニュースでも必ずのように取り上げ「今年のは出来が良い」なんて、毎年言ってるような気がするがどうだろう。猫も杓子ものお祭り騒ぎは好きではないが、なぜか毎年のようにヴォジョレ・ヌーボーは、アッチから私の前にやって来る。
昨年は隣町の女性歯科医が、美味しい生ハムと一緒に運んできてくれた。この歯科医、昨年の春にたまたま共通の知り合いを通して紹介されたのだが、最初はお互いに、未婚か否か、年齢は上か下かをさぐりさぐりの会話だった。しかし、二人とも未婚の同じ年と分かってからはアッという間に打ち解けて、今では紹介してくれた知り合いなど交えずに仲良しこよしをしているのだった。同じ年というもののもつ親近感というのは誠にもって不思議なり。
一昨年は、赤坂の店で土佐料理に舌鼓を打っていると「ヴォジョレーがあるのですが如何ですか?」と仲居さんが薦める。普段はあまりワインを飲まないし、連れの編集者も日本酒一辺倒なのだが「飲んでみたらいいじゃないですか」という編集者の一言で試してみることにした。クイッ…「ウム、ワインだ」ってなとこかな。豚に真珠、姫宮にヴォジョレー。
そうそう、もっと遡ればこのワインに関しては、なかなかに楽しい思い出の晩秋があったのだった。
もう10年以上も前になるが“ヴォジョレヌーボー・ラン”と銘打って、東京と大阪から名古屋に向けて一斉にスタートするカーレースが開催されていた。昔、馬車に積んで出来たてのワインを運んだように、自慢のクラシック・カーにヴォジョレ・ヌーボーを1本ずつ乗せて、ほぼ中間地点の名古屋を目指す。クラシックカーでのレースなので競うのは速さではない。ノミネート全車のゴール平均時間に一番近い時間で到着した車が優勝なのだ。途中にはクラシックカーやワインにまつわるクイズの出題場所もあり、こちらもクイズの成績によって賞品が出る。
何より楽しいのが、参加者と参加車のいでたちだ。数十年も昔の車を、大事に大事に乗って来たオーナー達だから愛車がピッカピカなのは当たり前。その愛車にモールを這わせたり、季節がらクリスマス・ツリーを積んで、運転手さんもナビゲーターもサンタさんやトナカイさんに扮したりしているチームがいる。運転手、ナビ、そして愛犬までがヘルメットにゴーグル、ジャンパーにマフラーとリンドバードのような格好で揃えているチームもある。
一番多く見かけた車はロータスのスーパーセブン。これはアニメ、チキチキマシーン猛レースでボヤッキーが乗ってるようなやつだ。オープンカーだものだから、寒風を切って走る車の助手席には、毛布に頭までスッポリ埋まったナビさんが見える。
一番目を引いたのがBMWメッサーシュミット。ロボコンの胴体に車輪を3個つけたような真っ赤な車だ。どう見てもスピードとは程遠いロボコンが、ヨタヨタと名古屋を目指して高速道路を走る。この車、ドアを開けるとハンドルまでついてくるという代物。中は兎に角狭い一人乗りなのだ。毎年、夏に琵琶湖で行われる日本テレビの『鳥人間コンテスト』で、必死にペダルを漕ぐ操縦士の姿とかぶさるものがある。
さて私が乗車したのは1965年産、ワインレッドのムスタングだ。助手席に乗った私は、その車に合わせてアメリカン、マリリン・モンローを気取ってみました。銀座の博品館で金髪の鬘を購入。金色にラメの入った付けまつげまで併せて買ってしまった。衣装は真っ赤なミニのワンピース。そして足元は銀色のブーツ。実は普通丈の紅いニットのツーピースだったのだが、スカートのウエストを幾重にも折り曲げてたくし上げ、その上を太いベルトで隠したものだ。ブーツは細めのゴム長に、銀色のスプレー塗料を吹きつけた。でも肝心なトコに力を入れなきゃね。そう最も大事な豊かなバスト。私と最も無縁のものだ。ニットの裏側に、まるちゃんの赤いきつねだか緑のたぬきだかの空になったドンブリを縫い付ける。これが、なかなかのド迫力。さぁ想像しましょう、金髪のグラマラスな女性が銀のブーツに真っ赤な超ミニ、そしてカールした長い金色の付けまつげの目がこちらを向いてウィンクしてます。♪トゥトゥピトゥー。
しかし、悲劇は直ぐに起こりました。サービスエリアで一休み、コーヒーでも飲みましょうと車から降りドアを閉めようとしたその瞬間、ドアが“私の胸”をエグッて行った。ハッポウスチロールの見事な胸は、みるも無惨に凹んでしまった。サービスエリアで、ただでさえ目を引くマリリン・モンローは、一緒に参加していた68年産、スカイブルーに太い白線の入ったカマロ組の女性に盾となってもらいながらトイレに駆け込み、凹を裏側からぼこっと押して見事凸の修復に成功。
ここで、つくづく思いました。胸の豊かな人って車のドアの開閉にも気をつかうのですネェ。そう言えば、胸の豊かな友達が、テニスのラケットを振りぬけないなどとボヤいていたことがあったけ。私は品乳(やはり、私の場合はこういう漢字に変換されるようです)故に、どこのドアも何も考えずに開閉できるし、どんなラケットだって振りぬけるし、うつ伏せでも平気で読書ができる。あって不便、無くて便利な物も、世の中存在するのです。
レースでは残念乍ら圏外だったけど、マリリンはサミー・デービスJr に扮した運転手と共に「参加者を楽しませてくれた」という理由で審査員特別賞を戴くことができた。賞品は一升瓶に入った特性のワイン。ワインを受け取る時、豊かな胸を揺らして審査員にも楽しんでいただいたのは言うまでもない。♪トゥトゥピトゥー