2007-02-18 日
会議は眠る
弊社の弊局では月に1度、100人を優に超える局員を集めての大会議が、社内の1番大きな会議室を使って執り行われる。
しかし、会議とは名ばかりでズラッと並んだ局長、局次長以下、部長クラスのお歴々が、ただただ一方的にひと月の成果やら、今月の達成目標やらを捲くし立てる。その他大勢は、ただただ拝聴するだけだ。中には、社会情勢やら越し方行く末まで語りだすような輩もいる。こちらがいい加減うんざりした頃に「では、あと3点だけ」なんて言葉を吐きながら、3点がそれぞれマタマタ3ツにも4ツにも枝分かれしていたりするのだから始末に負えない。
3人ずつ座れる机が3列並んだ拝聴要員の席は、早いもの勝ちなので会議の始まる20分も前から座席を確保している人も大勢いる。中には、筆記具を置いて席を確保した上で、ギリギリまで仕事をしているというガンバルマンも居る。
一方的に話すだけなら、何もワザワザ集まる必要も無く局内のネットに載せればいいようなものだと思うのだが、長らく拝聴要員でいた人達が昇進したら、自分もじっくり喋ってやろうとでも思っているのだろうか。それではシゴキの酷い運動部じゃないかぁ。
しかし、毎月の会議故、聞く方も慣れたもの。しかつめらしい顔をしながら実は携帯でゲームに興じる人、新聞あるいは雑誌を読む人、瞑想にふける人と様々だ。そして何と言っても大多数を占めるのは居眠り派。机に突っ伏すまではいかないが、肘がツツツとずれて体がどんどん傾いて行く。それでも、通勤電車や映画館で見かけるような、鼾をかく人がいないのはさすがだ。
救いは、会議室に「飲食厳禁」の貼り紙が無いこと。さすがに食べ物を持ち込む人は居ないが、殆どの人が思い思いの飲み物持参でやってくる。聞いて役立つ内容は全くと言ってよいほど無いのだから、ここは勝手にアンケート。皆さん何をお飲みかな。
グルリと見回すと圧倒的に多いのがペット・ボトルの日本茶だ。そしてその種類の多さに驚かされる。お馴染みの伊藤園は“お〜いお茶”から始まって、ふかみ、濃い茶、キリンの生茶、コカコーラの一(はじめ)、アサヒ旨茶、十六茶、若武者、そして大塚ベバレジの、その名も“お茶”。他には午後の紅茶、ジャスミンティー、そして南アルプスの水やら、サントリー天然水。自販機や、スタバやドトールのコーヒー容器の人も居る。ちょっと異色だったのは伊藤園の“1日分の野菜”。会議の内容より、よっぽど体によさそうだ。
飲み物の“勝手にアンケート”も終わってしまった。今度は、会議室に並ぶ後姿をじっくりと眺めるとしよう。
アラ田中さん、いつの間にあんなに後頭部がデルタ地帯と化してしまったのかしら。高橋さんはカルデラ状態。山田さんの白髪は、ツキノワグマの首のように裾の方だけ、グルリと白い輪になった珍しい形状だ。ついこの間までキッチリ7×3に分けていた鈴木さんが、なんとモヒカンもどきにサイドを刈り上げているじゃない。普段は裸眼なのに資料を見る時だけは東国原知事のように眼鏡をかけ始めた人もいる。何しろ百人から居るのである。初めての発見や、意外な一面を見つけることもでき、これはなかなか面白い。
遠い所から一人ひとり目で追っていたら玉石混合の、ほぼ石っころだらけの中に光る玉を見つけることができた。山口さんだ。いつも、とんでもない部署だと嘆き、局員の悪いトコばかりをあげつらっている私ではあるけれど、山口さんは別。兎に角紳士なのだ。物静かで丁寧で、声を荒げているところを見たことがない。難しい仕事もスンナリこなすし、いつも余裕の笑みを浮かべている。人格的には大物なのだが体はかなり小柄で童顔だ。もう、ポケットに入れて持ち帰りたいくらい。
そんな山口さんが、右斜め前にいらっしゃるではないの。気付いてからは方向を定め、熱い視線を送り続ける。きっと振り向いて、二人の視線は混じり愛(ワッ、漢字変換までこんなんが出ちゃったヨ)絡み合い…ウフフ。けれども、山口さんは局長の話を聞きながら熱心にメモをとっている。視線はひな壇の局長に向いたままだ。それでも、じっと見つめていると隣の男性が振り返った。ゲゲッ、石も石。見たくもないエンドウだ。青木さやかばりに「何処見てんのよ!!」と言って舌打ちをしたいくらいに嫌いなヤツだ。ムッとしながら、遭ってしまった視線を外す。なんだって、山口さんとエンドウが並んで座っているのよ。
それからも、山口さんを見るとご本尊は確り前を向き微動だにしないのに、エンドウがなぜかチラと振り返る。前を向け!お前なんぞに用は無い!!
この会議で、100人を超える烏合の衆が居眠りこきこき時間が通り過ぎるのを待って居る中で、たった一人忙しく走り回っている青年が居る。その名も“サイトウユウキ”君。もちろん、かのお方とは同姓同名の別人である。昨年入社した1番の下っ端だ。次の新入社員が入るまでは局のパシリを一手に引き受けざるを得ない立場。なので、ひな壇の局長以下が話をする際、司会の指名に従って水色のハンカチならぬマイクを片手に、その“話し手”の元へ走らなくてはならない。痩身を濃紺のスーツに包み、サッパリと刈り込んだ髪、こちらも早稲田の“サイトウユウキ”君に負けないくらい爽やかな青年だ。ひな壇の前を右へ左へと走り回っている姿に、思わず水色のハンカチを差し出したくなってしまう。ガンバレ弊局の“サイトウユウキ”。
かくして、無味乾燥な弊局の全体会議は、来月も再来月もその又先も続くのだった。話を聞いたふりしながら時間を潰す、良い方法があったら是非、教えてもらいたいものである。