ボケ

これが“気”だけでおさまれば良いのだが、行動まで伴ってしまうから困ったものだ。

私が働いている部署は、小学校の黒板の右隅に書き出すような“日直”がある。昼休み、皆がランチに行っている間の職場を守ることと、夕方「今日の仕事はこれで終わりにしましょう」と、日誌ならぬ伝票やデータを関連部署に送り込む締めの仕事をする。夕方になって、なんでもテキパキとこなすワタクシは、とっとと伝票を確認しFAX送信した。するとトイメンのP氏が「スミマセン」と言う。さて次、データをどんどん送る。すると又もやトイメンのP氏が「ありがとうございます」と言う。まぁ、普段から丁寧な人だから、職場全体の仕事として、合いの手を入れてくれているのだろうと思っていた。ところが、最後の最後に明日の当番さんに、伝票を渡そうとして分かった。今日の“日直”はP氏だったのだ。すると、私の当番は明日ではないか。私は私に伝票を「よろしく」と渡さなければならない。どうりでP氏が、何度もお礼を言うはずだ。

(あらら)とは思ったものの、そこは「私は女優よ」。さも忙しいP氏を手伝ってやったのさという姿勢を崩さずに「では、お先に失礼します」と席を立ち、思い出し笑いを必死にこらえながら帰途についた。

さて翌日は正式に私の当番。これは大手を振って“日直”の仕事を遂行する。昼は良い子でお留守番。夕方の準備もおこたりなく、ン今日は金曜日。金曜日だけは普段より30分早く締めの仕事をしなくてはいけないのだった。ドッヒャーっと、大慌てで取り組もうとした瞬間、同じ部署の人から「今日は木曜日ですよ」の一言。加えて「明日は土曜日ではありませんから、休まないで下さいね」と、念押しをされてしまった。

社では、その程度で納まっているが、自室に戻ると色々とやっている。

目覚ましをOFFのまま枕元に置いておいたのが木曜日で、金曜は枕元に置くことすら忘れていた。どちらも携帯のアラームが知らせてくれたから助かったものの、目覚まし一つに頼っていたら何時まで寝ていたことか。

浴槽を掃除して蓋はしたものの、栓をせずに給湯のスイッチを押したこともある。いつになっても「お風呂が沸きました」のアナウンスが無いなぁと思って蓋をあけたら、たまることの無いお湯がチョロチョロと流れていた。ああ、まったくもって湯水のごとく垂れ流してしまったわけだ。一晩で風呂桶何杯分の水と、ガス代の無駄をしたことになるのだろう。水をはって炊く形式の湯船でないから空焚きをせずに済んだし、これからもその心配だけは無いのが救いである。

会社でお隣さんが開けっ放し、引き出しっぱなしにしているドアや引き出しまで、キッチリと閉めて歩いていた私のはずなのに、なぜかここの所、ドアは開けっぱなし引き出しは引き出しっぱなしになってしまった。用事をして、ふと見回すとアッチのドアは開けたまま、引き出しなんてご丁寧に2段も並んで引かれたままになっている。気付いて締めに行く途中でテーブルの上の出しっぱなしの物に目が行くと、そこで違う作業を始めてしまい、何をしにいこうとしていたかを忘れてしまう。挙句、開けっ放し、引き出しっぱなしはいつになっても収拾がつかない。

その話を、バースデー・ランチでお祝いしてくれた一回りも年下の孝子さんに「1歳の差は人間にかなりの負をかける」と話すと「私が1ヶ月泊り込んでビシバシ、躾てあげます」という心強い言葉が返って来た。「やはり人間は痛い思いをしないと、なかなか直りません」と。かなり本気でしごいてくれるつもりらしい。「そのままだったら、空き巣に入られても分かりませんから」って。

次は、記憶力だ。名前が出てこないなんて日常茶飯事。政治家や歴史上の人物なら「私の生活とは関わりないし、佐賀のがばいばぁちゃんの教え通り、過去にはこだわりません」で済むけれど、大好きなテレビ・ドラマの登場人物が出てこないとなると、たった1ツの得意分野も瓦解かと頭をかかえるしかない。単語も「絶対に」と威張りたくなるくらい出てこない。会話の途中で「ホラ、ほら…」ってホラ吹きになってしまう。

3日ほど前には、絵美ちゃんの好きな女優さんがポッチャリしてきたという話を、絵美ちゃんとしていて、元の魅力を表現したいのに、思っている言葉が出てこない。「ああ、言葉が出てこないよぉホラ、ほら、スリムでもない、スッキリでもない、ツンでもない…鋭角な感じを英語で述べよ」と言ったら「シャープ?」って。それよそれ、お陰で刺さった小骨が取れました。絵美ちゃんなら長年の付き合いで分かってくれるが、なかなか出てこなかったらお互いにイライラするだろうなぁ。この調子で話していたら普通の会話の何倍のエネルギーと時間を使うことやら。新案・ボケダイエットはいかがかな?!

しかし、私の新春初ボケはこの程度で納まってくれるのだろうか? 昨夜なんて、お風呂に入ろうと、居間から浴室にパジャマ、新聞(半身浴の必需品)、携帯電話、それと入浴後寝室で見るためのビデオテープを持って立ち上がったのは良いのだが、気付くとキッチンの冷蔵庫を開けて、テープをしまおうとしていた。最初から、これだけの品数を手にしてはいけなかったのね。でもなんで冷蔵庫? 我ながら驚いてしまう。

どこまで続くボケ道よ。人の仕事なら取ってもお礼を言われるが、お隣や目の前の人のお皿から食べ物を奪ってしまったらどうしよう。人様の物を持って「私は女優よ」って威張っちゃったらどうしよう。冷蔵庫に服や靴まで仕舞い込んでしまったらどうしよう。新春の夢ではなく心配のタネは膨らむばっかりだ。

ここで我が母トラうさぎの格言「人間、年を取ったらボケちゃった方が勝ち」。ホントかなぁ。