2006-12-31 日
電子レンジ
バナナを刻んで入れたバカラのボウルに、手作りのカスピ海ヨーグルトをたっぷりとかける。軟骨を再生するというヨシキリ鮫のドリンク剤、そして牛乳にほんの少しインスタント・コーヒーを振り入れ電子レンジでチン。これが私の朝食だ。1年365日、真夏でも真冬でも全く変わることはない。
ところが先日の朝、いつものようにインスタント・コーヒーでほんのり褐色になった牛乳をチンしようとしたのだが、電子レンジの中に入れたマグ・カップが回り始めたと思った途端、バスッという音と共にレンジの明かりが消えた。もちろん、マグカップの牛乳はヌクとも温まらない。ン?と、ドアを開けたり閉めたり、スイッチON・OFFを繰り返すも、レンジは全く働いてはくれない。壊れた?! ウッソォ。
料理をしない私には、出来合いの品を暖めてくれる電子レンジが、食べるためには何物にも代えがたいほどの頼みだ。冷凍室の中は、チンすれば食べられるピラフ、ピザ、グラタンからほうれん草のバター炒め、餃子、白身魚のオーブン焼き、焼きお握り、そして大量に買い込んだ、お気に入りの胡桃とレーズンの入った食パン、実家から送られたとたんに冷凍したお餅と、一部の隙も無いくらいに満杯だ。それに引き換え冷蔵室の常連は、自慢のカスピ海ヨーグルトと牛乳のみ。調理せず食べられる納豆や、芽かぶ、漬物がゲストで居ることもあるが、ガランとなんと寂しいこと。
さて困った、牛乳を温めることすらできないなんて。
こういう時は「そうだマグマ大使を呼ぼう」。ピッピロッピッピーって、フォーリーブスになる前の江木俊夫が泣きつくマグマ大使のように、私も決まって泣きつく従姉妹に電話。「ねぇねぇ、電子レンジが動かなくなっちゃったんだけど…」。「壊れたの? それともヒューズが飛んだだけ?」。ヒューズ? そんなもの頭の隅にもよぎりはしなかった。ちょっと昔、実家ではよくヒューズが飛んだものだ。電化製品が庶民にも手がとどく代物となり、テレビ、掃除機、冷蔵庫、洗濯機、ステレオ、ホットプレート、電子レンジと、家にもどんどん新兵器がやって来た。そんな頃はアンペア数がその仕様に耐えられず、どこの家でもしょっちゅうヒューズが悲鳴を挙げていた。家族が揃ってのクリスマスパーティー当夜。ファンヒーターで温まった部屋にステレオの音楽が鳴り響き、ホットプレートの上では肉と野菜が良い色の焦げ目をつけ、ツリーのイルミネーションが灯り、レンジで鶏を暖め直そうとした瞬間にバスッ。真っ暗な部屋の中で皆が口々に「メリー・クリスマス」ではなく「ヒューズ、ヒューズ」。結局は父が、壁に張り付いている陶製の白いソケットの蓋を開け、スパナを小さく薄くしたような、銀色のヒューズを交換する。ヒューズの代わりにハリガネを使って家事になった家があるなんて話も聞いたことがあったっけ。忙しい朝も炊飯器、テレビ、ヒーター、電子レンジ、そこへ誰かがドライヤーでも使ったひにゃぁ即、バシッ。今はアンペア数も大きくなってヒューズが飛ぶなんて考えもしなかったが、電化製品それ自体にもヒューズってついていたのですね。
ヒューズでもミューズでも良いのだが、問題はこれから当面の食事だ。大好物の牛乳を暖めるのは、ミルクパンに入れてガスにかければこと足りるが、ピラフ、ピザ、グラタンからほうれん草のバター炒め、餃子、白身魚のオーブン焼き、焼きお握り、これらをレンジを使わずにどうやって食べたらよいのか、料理をしない私には皆目見当がつかないぞ。
ぎりぎりで出勤の支度をしている朝、いつものように牛乳を注いだマグカップをレンジに入れて(アッ、そうだ動かないんだった)とガックリ。ミルク・パンに入れなおし、ガスにかけてちょっと洗面所へ。ついでに花瓶の水を代えて、などとやっていたらジュワッジュワッという音とともに焦げ臭い空気が漂ってきた。おっとぉ、ガスレンジは電子レンジのように温まれば止まるわけではないのでした。レンジ台は吹き零れた牛乳で溢れ、中心の金具にはこげ色がついている。慌てて触れればアッチッチだし、金具を外さなければ中にまで牛乳が入ってしまう。今度はガスレンジが使用不能なんてことになったら目もあてられない。顔を作るために使いたい時間を、ひたすらガスレンジの掃除に当てる。あ〜あ、鍋にはミルクが殆ど残ってないし、温め直すための電子レンジは使えないし…。
従姉妹にSOSは出したものの、直ぐに確認に来てくれそうもない。「そのうち見に行ってやるワ。電子レンジなんて無くても炊事くらいできるでしょ」そのうち??? お願いする身としては強いことを言えないのよねぇ。
それからは、鍋一つでできる料理作りに挑戦。電子レンジが元気なら鍋を洗うことだってしなくて済んだのに。まずは、血をサラサラにする玉ねぎと緑黄色野菜の人参をスライサーで細く裂き、水を張った鍋に。沸いてきたところに冷凍のワンタンとそのスープをぶち込む。そこへ、これまた冷凍のうどんを入れて、芯が無くなったら卵を溶いて落す。味? これがなかなかどうして。翌日も玉ねぎと人参は同じ工程、今回はここへ冷凍室からお握りを取り出しまして沈めて崩す。そこに白菜キムチを入れて卵を流し込む。味? 完璧。そのまた翌日は鍋にお湯を沸かし、フリーズドライの卵スープの元を入れる。そこに冷凍しておいたお餅を入れる。味? そりゃあ抜群よぉ(お餅は芯が固かったけど)私って、いざとなれば、包丁も持たない天才シェフ?! なんでも臨機応変にやってみせ、それが又基準値を軽くクリアしちゃうんだから困っちゃう。とは言え、やっぱり電子レンジの無い生活はここまでが限界だ。だからお願い、電子レンジよ蘇れぇ。
こんな状態で果たして私は、無事新年を迎えることができるのだろうか…。
そうそう、お気づきとは思いますが出だしに書いた“バカラのボウル”、すみません見栄を張っていました。バカラなんて、家中どこを探してもございません。お詫びとして、恵比寿ガーデンプレイスのX‘maxに飾られた、正真正銘バカラのシャンデリアの写真をここに掲載致します。
今年も年末までドタバタの姫宮でございますが、1年間おつきあい、ありがとうございました。
皆様、良いお年を。それにつけても、ああ電子レンジ…。