2006-12-10 日
音痴家族
お笑い芸人歌がうまい王座決定戦スペシャル「笑いを一切捨てて歌だけで真剣勝負!」と銘打った、お笑い芸人の“のど自慢”番組を見た。真剣勝負というだけあって、皆なかなかの熱唱だ。キモイとか不細工とか言われ放題のお笑い芸人達の、普段と打って変わったその素晴らしい歌声に、会場の女性達がどよめきピンクのため息や歓声が溢れる。審査員を仰せつかった女性タレントも「今日は男前に見えたわぁ」と、潤んだお目目でコメントをしていた。
“ハリセンボン”という女性の漫才コンビの片割れは、細い体型と前歯の神経が死んでいて、色も黒く変わってしまっていることから死神と囃されている。そして、普段の口調は、死神そのままにか細く弱弱しい。常に俯きカゲンの体勢は、目の前にしたら誰もが、一歩も二歩も引いてしまうだろう。ところが、歌い出しから驚かされた。曲名もプリンセス・プリンセスの♪ダイヤモンド。アップテンポの元気な曲を、顔を上げ、リズミカルに声量豊かに歌うではないの。そこには死神とはかけ離れた元気ハツラツの若いエネルギーがはちきれそうなギャル(古い?)がいる。
いいなぁ、歌がうまいって…。私は、というより我が家は父を筆頭に皆、自他共に認める筋金入りの音痴である。それでも母は普段から、民謡だ、社交ダンスだ、カラオケだと声を出したり、体を動かしたりしているので、知らず知らずに人前でも歌えるだけの技量が備わったようだ。公民館や市民ホールで行われる、高齢者のためのカラオケ大会などには勇んで参加して、それなりに拍手をもらっている。しかし、カセット・テープをまわしながらの練習段階では、幼かった姪達の方が早くしかも、正確に覚え「バーちゃん、そこは上がるんだよ。そこは下がるってこの前言ったでしょ」なんて、厳しくチェックされていた。そんな様子を見て賢明なる豚弟の妻は、姪たちに早くからピアノ教室に通わせ、姫宮家の呪われた“音痴”の連鎖を必死に断とうとした。2人の姪は母親の願いが叶い、ピアノを弾きこなし、リズム感も具え姫宮家有史以来の“音痴”の連鎖を見事断つことに成功したのだった。そして音楽の素養を身につけて姪たちに、彼女らの祖母であるバーちゃんから「2人で歌いながら家々を回っておいで」と“あほう鳥姉妹”の芸名まで授けられもした。残念ながら、デビューのきっかけが無いままに今にいたっているが。
豚弟などは、入社した会社の新人歓迎会の席で「歌え!!」と言われ、当時流行っていた♪与作をリクエストされたという。言われるままに新人は♪トントント〜ン と心を込めて歌ったのだが、途中で浴びせられた先輩諸氏からのお言葉は「▲●も逃げ出す姫宮の音痴」。▲●には、それまでの歴代の音痴の名前が入っていたのは言うまでもない。
豚弟の部屋からは、小室等、みなみこうせつ、吉田拓郎のテープが流れ、かき鳴らすフォークギターの音色も聞こえて来ていた。ところが肉声の歌声が聞こえてくるのは、「姫宮はもてません」と、太鼓判を押しつつ自分の彼女の写真を「お姉さん、今度の彼女綺麗でしょ」と見せびらかす豚弟の親友、伊東君のものだけなのだ。どうやら、音痴の豚弟は伴奏のみに、これ勤めていたらしい。父は、家を建て直した時、田舎のこととて親戚縁者を迎えて披露の宴を催した。その時、近所の人が、わざわざカラオケの機械を持ち込んで来た。これがあれば、盛り上がるだろうというご好意だ。しかし、主催者側の我が家では「余計な物を…」というのが両親・娘・息子の一致したお腹の中。
カラオケ大好きの来客の歌で大いに盛り上がったお披露目の席も、一巡すると飛んで来ました「姫宮家が誰も歌ってないぞぉ」と、お酒も回ってきた伯父の声が。父は「私は、オヤジの遺言で歌えません」と陳腐な言いわけをしながら頑としての拒否。私は「イヤいや」と乙女チックに辞退。母は、台所に篭城。そうなると「長男、歌え!!」の声に、豚弟も断りようがない。ここで、選曲したのが杉良太郎の♪すきま風。「新築の祝いの席で♪すきま風を選ぶ奴が居るか?!」と、伯父にチャチャを入れられながらも豚弟は、さんざん音痴をはやされて♪傷ついてすきま風知るだろうぉ〜 と、哀愁を帯びて歌っていた。しかし、初めて聞いた豚弟の歌は、想像していたよりはマトモで、当時は姫宮家一の“のど自慢”と言えたのかもしれない。甲乙付け難し、ではなく丙丁のつけにくい家族ではあった。
そんな姫宮家の長女もたまには友達とカラオケに繰り出すことがある。友達と言っても殆どが10歳前後も年下だもので、私が歌っても元の歌も知らない年代なので“音痴”のそしりは免れることができた。その上に、カルチャー・ショックを与えることもできる。言われて初めて気づいたのが「姫宮さんの歌う曲は3番まであるんですね」。そうか、最近の曲は1番、2番、3番とはっきりセンテンスになっているわけでなく、いつの間にか始まって終わっているのが多い。歌詞も“花鳥風月”や恋や愛、熱き青春を歌った歌謡曲とは大分違う。母に言わせると「朝起きて、歯を磨いて顔を洗ってって、何が歌詞かねぇ」という日常の生活が、これまた摩訶不思議なメロディーになって流れている雰囲気がある。ん〜、ついて行けない。何より、歌本が回って来て選曲しようにも、歌のタイトルなんだか歌っているグループの名前なんだかも判断がつかない。TMレボリューションなんて、どんなグループかと思ったら、西川なにがしという歌手が一人で歌っている。ならそのまま西川君の名前のままで良いではないか。
名前がどうでも歌詞がどうでも、歌が上手く声量も豊かでリズム感のある人たちは、真逆の私からしたら誠に羨ましい限りだ。スポット・ライトを浴び感情を込めて愛のメロディーをやんやの喝采の元、歌い上げることができたなら、音痴人生ン十年そのまま昇天してしまってもいいくらいだ。
ああ、サンタさん。今年のクリスマスに倖田来未のような音感とリズム感と、豊かな声量を私に下さい。ついでに、あの豊かな胸もいただけたらそりゃあもぉ大喜びさぁ。