2004-09-05 日
携帯
金0円也で携帯電話を買った。0円よ0円。ただよ、タダ。なのに写真まで撮れるというから凄い。アダプターでしょ、電池でしょ、厚さ2センチもあるマニュアル本でしょ、これらを入れて手渡してくれた袋だけだって、小さいけどしっかりした作りで、ギフトショップなんぞに行ったら150円はする代物よ。
とは言え、やはり最新機種はそれなりのお値段がするらしい。時代遅れ、アナログ人間の私が、0円也で手に入れた機種はドコモのN5051。ちょっとだけ型が古い。でも「話せればいいんですよ、電話なんだから」と、CMで言っている松本人志と全く同意見の私としては、使いやすければ余計な機能は要らない。通じさえすればいいのだ。
0円の携帯を買ったのは、神田の「安いよ」というチラシを配っていた店。気の良さそうなおにいちゃんが、物欲しげに見ている私に「どんなのをお探しですか?」って声をかけて来た。「とにかく、扱いが簡単な物を」と言うと、「ラクラク・ホンというのがありますが、まだそれを使うお年でもないでしょうし、色々ありますからご覧になって下さい。お客様にはピンクのが似合いますよ」なんて、優しい言葉をかけてくれちゃう。それでいながら、あれ、これと指差すと「それは無理、使いこなせないでしょう」の答え。結局、社で私のトイメンに座る「携帯なんて全く分かりません」という機械音痴のお父さんが、お嬢さんに持たされたのと全く同じ機種に落ち着いた。無難な線というのは、どこにでもあるようで。
初めて、実物の電話機を目にしたのは幼稚園に上がった頃だったろうか。当時、実家のお隣さんは公民館だった。まだ平屋建て木造の公民館。長い廊下の柱に、木箱にラッパのような送話器がつき、糸電話のような受話器がついたモノが取り付けられていた。そしてその木箱の横についたハンドルを、ぐるぐる回すことによって交換手を呼び出す。金田一耕助がマントを翻して登場する、映画やドラマに出てくるような代物だった。
子供まで携帯電話を持ち歩くご時世だが、小学6年で東京オリンピックを見た、この私が自分の家の電話で通話出来るようになるまでには、長い長い時間がかかった。
まず、電話を置いている商店に行き、貸していただく時期がある。公衆電話など、お目にかかるのが難しい時代である。お願いして拝借して、話が終わったら100番だか、105番だか、110番(ン、これは無いな)。とにかく何番かを回すと、通話料金を教えてくれる。そのお金を商店のおかみさんに払い、最敬礼して帰ってくるのだ。
やっと自宅に電話が入った時は高校生になっていただろうか。だが、それは我が家だけの専用回線では無かった。電話機は、もちろん各家庭に一台ずつあるのだが、回線はご近所さんと共用なのだ。一軒一回線にするには時間と経費がかかるということで、ご近所で二件一組になって回線を引いた。我が家は裏の田中さんチと一緒。だから番号は違っても、どちらかの家が使っていると、もう一軒の家では「お話中」という現象になる。急用の時は困ったが、連絡を忘れて帰りが遅くなった時などは逆に「電話したんだけど、お話中だったのよ。田中さんち家族が多いからしょうがないよね」と、活用させていただいた。これで親も納得、子もホッと。臨機応変ってやつですか。
初めて、家に入った電話機は黒々としたダイヤル式、ずっしり重い熱硬化性プラスチック製。番号の書かれた穴に指を入れてジーコ、ジーコと回す。私の華奢な白魚のような指で回すと、ほぼ円を描くほどの角度の時は、その穴から指が外れてしまい、最初からやり直しなんてこともしばしばあった。「これで、マニュキアを塗りたてでも大丈夫」という謳い文句で、ダイヤルを回す為のスティックなんぞが売り出された事もあったっけ。
それからアッと言う間に、ダイヤルが押しボタン式になり、コードが外れ、あるいはFAXがつき、進歩したもんやねぇ。サスペンス・ドラマで、一昔前には電話がアリバイの証明に使われたが、今では全く無理よね。自分の編み出したトリックが崩れていくぅ、なんて嘆いている推理作家さんも結構いたりするのではないだろうか。
はてさて、そんなこんなで初めてマイ携帯を手にした私だが、何しろ取り扱い説明書を読まない大雑把なO型。かけた相手から早速に、「非通知になっているから、ちゃんと表示にしないとワンギリと間違える」とのクレームが来たが、分からない。ウームどうしたものかと思いながら歩いていると、目の前にあるではないのDOCOMOショップ。犬も歩けばなんとやら。物怖じしないO型は、迷わず入り込んでお伺い。番号札を渡してくれる案内嬢が「どのようなご用件でしょう?」と言うので、非通知の非を取ってほしい旨伝えると、「それでしたら」と近くのソファーに座らされ、いとも簡単に通知モードに切り替えてくれた。「他に何かございますか?」。せっかく聞いてくれても、ただ、マイ携帯を携帯しているだけの私には聞く項目すら分からない。「何かございましたら、おいで下さい」の優しい微笑みに見送られ店を後にした。
それからというもの「マナーモードのボタンを押したら、バイブレーターも作動しないし光も点滅いたしません」。「メールのアドレスを設定して下さい」。「いたずらメールが届きました。アドレスを変更して下さい」。等々「何かございましたら」の通りにお邪魔する。友達に話したら機種を手渡されたら最初にする設定で、みな自分でやっている事だと呆れられた。
でも、私はまた何かあるごとにDOCOMOショップのお姉さんを訪ねちゃうんだろうなぁ、だって「又、どうぞ」って言ってくれたもの。その上、店を出る時には「ありがとうございました」の大合唱よぉ。こちらの頼みを聞いていただきながらお金も払わず、お礼を言われちゃうなんて。すっごい贅沢よねぇ。さて次は待ち受け画面なるものを教えてもらおう。それから写真の添付方法でしょ。番号の登録方法でしょ、それから、それから…。
DOCOMOショップのお姉さんにいつか言われそうだ。「話せりゃいいんですよ、電話なんだから」って。