2006-07-09 日
提灯祭り

今年の7月18日も雨かなぁ…。
実家のある埼玉の片田舎では、毎年7月18日に「天王さま」と呼ばれる祭りがある。各町内ごとに自慢の山車へ、昼は等身大の素戔嗚尊、武内宿弥、神功皇后といった尋常高等小学校の教科書に出てくるような方々の人形が恭しく飾られて町内を練り歩く。そして、夜になると、やぐらに500もの提燈をつけ、そのろうそくに灯りをともして引き回すものだから、今では「提灯祭り」と言った方が通りが良さそうだ。その祭りの日が7月18日なのだ。第○日曜なんていう風に、人の集まり易い曜日に祭りが行われることが多くなっている昨今だが、この「提灯祭り」は断固として7月18日を守っている。そして、この日は雨の降る確立が非常に高い。もっとも夕立が多い時期なのだから、これは致し方ないことか。
子供の頃、白地に朱色の金魚が描かれた、まだ肩上げがされている浴衣を着せられ、桃色の三尺を結んでもらい♪紅い鼻緒のじょじょ履いてぇ さて、おんもに出ようとすると雷がゴロゴロと鳴り、雨がザッと降り出すのがお決まりだった。
でも、白状するとその頃の私は、この祭りが嫌いだった。自分の背丈より高い、分厚い木で出来た大きな車輪が迫ってくると、踏みつぶされるのを想像して怖かった。それに又の名を“喧嘩祭り”と言うように十字路で出会うと、引き手は山車を勢い良くぶつけあう。それでもお囃子を乱さないというのが各町内の誇りだとか。しかし、山車がぶつかりあえば火の灯った提灯がアッチ・こっちで燃え上がる。山車に乗っていた小父さんが焼け死んだなんていう物騒な話をまことしやかに聞かされると、それを鵜呑みにして恐怖におののいた。山車の天辺に乗り、トンボと呼ばれるT字型の木で、電線を持ち上げる役のお兄さんが山車から転がり落ちて亡くなったという話を聞いては泣きそうになった。雷も嫌いだったが、雨がザンザン降れば、お祭りも中止になる(雷さま、もっと雨をふらせて下さい)と子供心に祈ったものだ。
藍色の地に白いアジサイが浮かぶ図柄の浴衣を着、三尺から帯を結ぶようになった頃には、お祭りの夜のデートなんてことも…あっても良いはずだったのに、振り返ってもありゃしない。けれどもこの頃には、お祭り大好きお姉さんに成長していた。母や、祭り好きで毎年見物にやってくる祖母と、浮き浮きしながら出かけたものだ。四つ角で睨みあった山車が、今にもぶつかりそうになるのを見て「行け、行け!!」と、声を張り上げもした。警官が交差点の真ん中に分け入って「ピー、ピ、ピピピピー!!」と警笛を鳴らし、山車のぶつかり合いを止めると「つまんなぁい、ぶっつけろ!!」と、すっかり囃す側になっていた。

ある年の銀座パレードに、この“提灯祭り”が参加することになった。どういう経緯か、私は資生堂パーラーの、窓際2階席という願っても無い場所を確保して食事をしていた。一人で行ったはずはないのだが、一体どこのどなたさんと一緒だったのかすら、微塵も覚えていない。
しかし、我が故郷の“提灯祭り”ご一行様が、真下を通った時のことはしっかりと覚えている。列の先頭を、高張提灯をつけた太い竹を抱えて粋な旦那衆といった感じの、役員と思しき方々がゆるりゆるりと歩いて行く。その後ろを、町名が入った小田原提灯を手にした一行が、これまたゆるりと続く。ここまで見たところで、近くの席の女性が「なにこれ、これが提灯祭り?」と、鼻で笑いながら言ったその時、後ろから賑やかなお囃子と共に、500個の提灯をまとった山車が勢い良く登場してきた。それだけでも、初めて見る人は迫力に圧倒されるところだが、この山車なんと車輪の上から回るのよね。回る山車の上には何人もの青年が釣竿のような、細い竹の先に提灯をつけクルクル回しているし、紙吹雪も散らしているし、そりゃぁもお見事なのさ。先ほどの女性が、目をパチクリ、口から出る言葉は観に耐えたように「カッコイイ!!」って。溜飲が下がるとはこういう時に使う言葉なのね。見たか、我が故郷の日本一の提灯祭りを。
ところで、祭りの由来なるものを紐解いて驚いた。『天明3年(1783年)、浅間山大噴火によって桑をはじめとする作物が全滅し、これから立ち直ろうと本町の宮本家の祭礼用山車を借りて、これを町内に引き回し、豊作を祈願したのが始まりと伝えられています。浅間山の噴火が7月8日だったので、10日遅れの7月18日にこれを行なったものが、現在も受け継がれています』ここに出てくる“宮本家”とは、私が生後11カ月から目の中に入れたり出したりしながら可愛がって来た“モトちゃん”のママのご実家のことなのだ。ああ、そんなやんごとなき若様だったなんて。世が世なら…スケートの小田和正とイイ勝負かな。いえいえ、やっぱり我が郷里からすれば宮本家をご先祖様にもつ“モトちゃん”の勝ち。すると、この私はさしずめ春日の局ってとこかな。
誰か今、春日の局ならぬ会社のお局って言ったでしょ?!