テレビ東京のトーク番組『カンブリア宮殿』が面白い。

長崎のカメラ店を、自ら独特の口調でTVショッピングに出演し、年商1000億円の通販会社に成長させた“ジャパネットたかた”の高田明社長、“男前豆腐”や“風に吹かれて豆腐屋ジョニー”なんていう、普通は考えもつかないようなネーミングで、高級豆腐を売りまくっている伊藤信吾社長といった、経済界に新風を巻き起こしているような人達から、歌舞伎の中村勘三郎丈、メジャーリーグの松井秀喜、サッカーの三浦知良といった人までがゲストに招かれる。そこでは司会者とのトークだけでなく、観客の質問を受けたり、事前に寄せられた、ゲストのキャリアとは関係無いような、番組宛の質問ハガキにも答えるという趣向も展開される。

司会は作家の村上龍氏。初めて見た時は、そのたどたどしい物言いに(大丈夫ぅ?)って、画面のこちら側でハラハラしたものだが、その朴訥とした進行が今では魅力に思える。立て板に水ではなく、おろし金にトリモチのようにあっちでひっかかり、こっちで引っ張られながらの質問に、回答者もついつい本音をもらすという雰囲気がかもし出されている。

先日のゲストは片寄斗史子さん。50代からの雑誌と銘打った『いきいき』を世に出しているユーリーグの副社長だ。創刊時174部だった『いきいき』を、今では43万部もの大出版物にした編集長でもある。本に連動して販売される服や雑貨を購入する読者のライフスタイルや、編集長自らツアコンを買って出ての旅行の様子もビデオで流された。そこに登場する熟年婦人の元気なこと。

この状況を見ての村上氏のコメントが振るっていた。「熟年女性は旅行に行っても何かを吸収しようと元気だし、趣味でも多岐に渡っているのに、年輩の男性はと言えば“そば打ち”しかないんだよね。特集って言うとそば打ちなんだよね」。

私でさえ(そうだそうだ)って思うのだから、納得した団塊の世代のおとうさんはあまたいることだろう。そして、この私はそば打ちすらできないが、こんな無趣味を絵に描いたような寂しい人生を送る私の周りにも趣味に興じる“妙齢のご婦人”は、けっこう居る。私はそういう方々に畏敬の念を覚えつつ、お話だけは聞かせてもらっているのだった。

2歳年長の清子ちゃんはフラダンスだ。始めたきっかけは「なんでもいいから“踊り”を習いたかったのよ」だとか。そして、市の広報誌の「手話のように手と体で言葉を紡ぎます」の言葉にビビビッと反応して飛びついた。早速、近くの大型スーパーが開催するフラダンス教室に申し込んだ。「即、入るって決めちゃったのよね」。それから5年がたつ。

ほぼ1年通ったところで、スーパー主催の教室では飽き足らなくなり、探し回った今の教室は「とにかく、先生の踊りが好きなの」と、全身全霊で打ち込んでいる。踊りだけではなく、曲の内容を知るために“ハワイ語”を勉強するための教室にも通っている。ハワイ語なんて言語があることすら、清子ちゃんから聞くまで知らなかった。フラダンスもハワイ語を勉強することによって、ハワイの文化や歴史まで学べ、より深みが出るのだそうな。

私の誕生日には、これまた別の教室で学んだハワイアン・キルトのクッションや、手提げ袋を贈ってくれる。パッケージには、やはりお手製のレイがアレンジして飾られているという念の入れようだ。

昨年は初めて“大会”なるものに参加して見事5位に入賞したという、その時の写真を見せてもらった。何チーム出場しての5位だか、どの程度の大会の5位だかは聞きそびれてしまったが、兎に角初出場での快挙には違いない。

その時の写真の清子ちゃんは付けまつげもバッチリ決まり、お肌も上気してピンク色。ネール・アートしてもらった爪の先まで輝いている。「元の爪の倍くらいの長さになって炊事なんて出来ないわよ」って。そんな時、先生がおっしゃったのだそうだ「ご主人に言いなさい。私はダンサーよって」。

大会に出るにあたっては、本場ハワイまで行って特別授業も受けた。生演奏のバンドも呼び、衣装も揃えた。そんなこんな、みんなコミコミにすると、なんと71万円也が飛んで行った勘定になるらしい。「高いでしょう?!」「これから、パートに精出して稼がなきゃ」なんて言いながら、その笑顔はハワイの空のように飛びっきりに華やかだった。(行ったことないけど)

清子ちゃんより、もちょっとお姉さんの私の従姉妹は、10年以上続けていた民謡から、半年ほど前に大正琴に乗り換えた。すると、その教室には「牢名主ならぬ琴名主がいるのよ」。長くお稽古に通っている大先輩が、先生より怖い存在なんだとか。「先生は月謝を貰う身だから私達はお客様だけど、琴名主は月謝を払いながら仕切ってるんだから大威張りよ」って、聞いただけでも恐ろしい。休みの日、アポ無しで従姉妹の家を訪ねると、これから稽古に行くという所だった。「帰って来るまで待っててね」と恐縮しながらも「遅れると琴名主に怒られるから」と、そそくさと出かけて行った。「俺のこともあのくらい怖がってくれないかねぇ」なんてこぼしながら、私が「お兄さん」と呼ぶ従姉妹の旦那さんが慣れた手つきでお茶を入れてくれた。

踏まれても、折られても小母さんは強い。お稽古デビューで、先生より怖い先輩達にもまれながら、より強く逞しくなって行く。そして、いつか琴名主のような先輩達より上手くなってやるという思いが、稽古熱に拍車をかけるようだ。この辺が、村上龍氏の嘆きのように小父さん達との大きな違いだろうな。

姫体質の私には、琴名主に打ち勝つパワーも無ければ、パートで稼ぐ体力も無い。どうやら、おいてけぼりにされた熟年の「お兄さん」達と一緒に、お茶を飲んでいるのが似合っているようだ。